インボイス制度がはじまったらシンプルな簡易課税のほうが良いこともある

【こしだ会計事務所 ブログ 作成日:

Simplicity is the keynote of all true elegance. - Coco Chanel

 

シンプルであることは全ての真のエレガンスの基本なのよ。― ココ・シャネル

 

大人の横顔。考えている。

 

こんにちは。モヤモヤ悩み好き会計士の「こしだ」です。

 

2023年10月からのインボイス制度の開始の足音が聞こえるなかで、消費税について調べている人も増えています。

 

 

そのような状況で、「簡易課税」という言葉をあらためて知った人もいるかもしれません。

 

・簡易課税のイメージがいまいちクリアでない

・簡易課税の意味は分かったけれど、うちのビジネスならどうすべきかわからない

 

こんな風に考えている経営者やフリーランスのかたは、是非にこのブログを読んでみてください。

 

 

簡易課税のことがスッキリわかると共に、あなたの会社がどちらでいくべきかの道しるべになりますよ。

 

 

1.簡易課税とは

 

簡易課税とは、

 

①税務署に支払う消費税の計算の方法のひとつで

②規模の小さな事業者(1年間の売上高が税抜ベースで5千万円以下)のみが選ぶことができる

③経理の処理が少し楽になる方法で

④消費税が得になるケースもある!

 

というものです。

 

 

2.簡易課税を選んだ場合の税務署に支払う消費税の計算方法

 

税務署に支払う消費税の額=売上高×(10%-業種ごとに決められた%)

 

 

という簡単な計算式で、税務署に支払う消費税の計算をすることになります。

 

 

この式の一番後ろの「業種ごとに決められた%」は、このようになります。

 

9%:卸売業(第1種事業)⇒売上の90%を経費として計算できる

8%:小売業、飲食料品の農業など(第2種事業)⇒売上の80%を経費として計算できる

7%:製造業、建設業、飲食料品以外の農業など(第3種事業)⇒売上の70%を経費として計算できる

6%:飲食業など(第4業種)⇒売上の60%を経費として計算できる

5%:サービス業、運輸通信業、金融業、保険業など(第5種事業)⇒売上の50%を経費として計算できる

4%:不動産業(第6種業種)⇒売上の40%を経費として計算できる

 

 

3.簡易課税を選ばない場合はどうやって消費税の計算をするのか?

 

簡易課税を選ばない場合は、「原則課税」という「原則通りのノーマルな方法」で消費税の計算をすることになります。

つまり2つの方法のうちのどちらかしかないということです。

 

・原則課税➡原則通りのノーマルな方法

 

・簡易課税➡経理の作業という視点からは、少し楽ができる方法

 

 

「原則課税」についてはこちらで解説しています。
超わかりやすい!右手と左手を使って、税務署に支払う消費税の計算を理解

 

 

4.簡易課税を選ぶメリット

 

(1)経理の作業が楽になる

 

簡易課税を選ぶと、経理の作業が少し楽になります。

 

なぜなら、税務署に支払う消費税の計算がとてもシンプルになるからです。

 

 

とても端的に言うと、

 

税務署に支払う消費税の額=売上高×(10%-業種ごとに決められた%)

 

 

という簡単な計算式で、税務署に支払う消費税の計算をすることができるからです。

 

 

 

でも、これだけではなぜ簡易課税が楽なのかいまいちピンとこないと思いますので、もう少しご説明します。

 

 

①原則課税の場合

 

この場合は、仕入や経費などの支払いの取引について、原則的には、受け取った請求書や領収書を見て、

 

インボイス事業者番号の記載があるか否かをチェックして、

 

 

 

支払先がインボイス事業者登録事業者であることを確認しなければなりません。

 

 

ただし、小規模な事業者は、税込1万円未満の取引については確認をしなくても良いという経過措置があります。
これだけ押さえておけば大丈夫!最小限のインボイス制度の対応ポイント

 

 

②簡易課税を選んだ場合

 

一方で、簡易課税を選んだ場合には、上記で説明したように売上高に一定の定められた率を乗じることによって、

税務署に支払う消費税の額が決まる(=差し引ける消費税の額(仕入税額控除)が決まる)ため、

 

ひとつひとつの支払い取引について、受け取った請求書や領収書を確認する必要がありません。

 

 

だいぶ楽なのがお分かり頂けたかと思います。

 

 

(2)原則課税と比べると得になるケースがある

 

 

 

ノーマルな計算方法である「原則課税」を選んだ場合と比べて、簡易課税を選ぶことによって税務署に支払う消費税の額が少なくなるケースがあります。

 

下記のようなケースがこれにあたります。

 

 

原則課税の消費税額 > 簡易課税の消費税額

 

 

このようなケースになるのは、弁護士や税理士などの士業やデザイナーやコンサルタント業のような知的専門業の場合が多いです。

 

 

なぜなら、このような職業では消費税の対象となる仕入や外注費がほとんどないケースが大半で、一番大きな経費は消費税の対象とならない人件費となるので、

 

簡易課税の計算で決まっている売上に対する経費の比率50%が、実際の経費の比率を上回るケースが多いからです。

 

 

なお、この「経費の比率」というのは、あくまでも消費税を支払っている経費の比率であることにご注意ください。人件費などは含みません。

 

 

くわしいイメージは、下記7.(1)を参照してください。

 

 

5.簡易課税を選ぶデメリット

 

(1)原則課税と比べて損になるケースもある

 

ノーマルな計算方法である「原則課税」を選んだ場合と比べて、簡易課税を選ぶことによって税務署に支払う消費税の額が多くなるケースもあります。

 

先ほどとは逆のケースです。

 

 

原則課税の消費税額 < 簡易課税の消費税額

 

 

どういった場合に損になる可能性があるかというと、車やパソコンなどの金額の大きい支払をした場合などです。

 

 

例えば、

 

200万円の車を買って20万円の消費税を支払った場合は、原則課税では税務署に支払う消費税が20万円減ります。

 

 

でも、簡易課税を選んでいた場合は、車を買ったとしても税務署に支払う消費税がまったく減りません。

 

なぜなら、先ほどお伝えしたように、この式で税務署に支払う消費税の額の計算をしているからです。

 

 

税務署に支払う消費税の額=売上高×(10%-業種ごとに決められた%)

 

 

この計算式には、車を買った時に実際に消費税を支払ってもまったく関係ないですよね。

 

そのため、原則課税なら減るはずの税務署に支払う消費税が、簡易課税を選んでいる場合には減らず、その分の損をしたことになってしまいます。

 

 

 

「それなら、車を買った時の決算期は原則課税で計算すれば良いんじゃないの?」

 

 

という声がありそうです。

でも、それができないんです。

 

 

 

6.簡易課税を選ぶ場合に縛られるルール

 

いったん簡易課税を選ぶと、次のルールに縛られます。

 

 

(1)少なくとも2年間(2会計期間)は簡易課税を続けないといけない(2年継続義務)

 

2年間、2会計期間は簡易課税での消費税の計算を続ける必要があるということです。

 

 

ですので、
車を買うからといっていきなり簡易課税をやめて原則課税に切り替えることはできません。

 

 

(2)簡易課税で消費税の計算を始めたい時は前期中に書類を出す必要があり

 

また、簡易課税を始めたい時も、すこしルールに縛られてしまいます。

 

 

例えば、

 

「簡易課税を選んだほうが得なことが分かったので、それが分かった今年から簡易課税を選んで消費税の支払いを減らしたい!」

 

 

となった場合も、残念ながら来年(来期)からになります。

 

 

 

車を買うなどのその時の状況に合わせて税務署に支払う消費税を減らすことができないように、まあまあ厳しい目にルールが決められているのです。

 

 

なお、免税事業者がインボイス登録事業者となることを選んだ場合は、その会計期間の間に(前期中ではなく)その旨の届け出を出せば、簡易課税を使えるようになります。

 

ただし、2029年9月までの経過措置になります。

 

 

7.インボイス制度が始まるタイミングで税務署に消費税を払うことにした場合(課税転換)

 

いろいろと悩んだ末で、インボイス制度が始まる2023年10月からは税務署に消費税を払うことを選んだ方は、

 

簡易課税にしたほうが得かどうかを考えると良いでしょう。

 

 

(1)簡易課税が得かどうかの予測の計算する方法

 

このような順番で計算してみてください。

 

 

①年間の売上高を予測する

 

これがなかなか難しかったりもします。その場合は、一番最近での決算書や申告書での数字をベースに考えれば良いです。

 

 

②消費税が乗っかっている仕入や経費の額を予測する

 

これについても、難しければ一番最近での決算書や申告書での数字をベースに考えれば良いです。

 

そして、下記のように考えれば進めやすいと思います。

 

 

消費税が乗っかっている仕入や経費=「消費税が乗っかっていない仕入や経費」以外

 

 

「消費税が乗っかっていない仕入や経費」とは、下記のものを言います。

 

・給料や役員報酬などの人件費(外注費を除く)

・損害保険料や支払利息

・税金への支払

・海外で使った経費

 

 

 

③原則課税の場合に支払う消費税を計算する

 

例えば、

①の売上高が消費税込みで800万円、

②の仕入や経費の合計が消費税込み300万円だとすると、

 

 

原則課税で計算した場合に税務署に支払う消費税は、

 

 

①売上高800万円-②仕入や経費300万円=500万円(消費税の計算のベースとなる利益)

 

500万円(消費税の計算のベースとなる利益)×10%(消費税率)=50万円

 

 

で、50万円となります。

 

 

500万円は消費税を計算する世界における利益のようなものです。

 

 

 

④簡易課税の場合に支払う消費税を計算する

 

 

簡易課税の計算式はこのようになっていましたね。

 

 

税務署に支払う消費税の額=売上高×(10%-業種ごとに決められた%)

 

 

この式の一番後ろの「業種ごとに決められた%」も、このようになっていましたね。

 

9%:卸売業(第1種事業)

8%:小売業、飲食料品の農業など(第2種事業)

7%:製造業、建設業、飲食料品以外の農業など(第3種事業)

6%:飲食業など(第4業種)

5%:サービス業、運輸通信業、金融業、保険業など(第5種事業)

4%:不動産業(第6種業種)

 

 

なお、デザイン、web制作、コンサルティングなどは5%のサービス業になります。

 

 

ですので、

 

売上高800万円×(10%-業種ごとに決められた5%)=40万円

 

 

が税務署に支払う消費税の額となります。

 

 

⑤2つの消費税額を見比べる

 

原則課税50万円 > 簡易課税40万円

 

となりましたので、簡易課税の方が税務署に支払う消費税の額が10万円少ないということになり、簡易課税を選んだ方が得だということになります。

 

 

なお、預かった消費税の2割を限度として消費税を納めたら良いという「二割特例」の経過措置については、こちらをご覧ください。

免税事業者がインボイス事業者になることを選んだ時の2割特例を簡単に解説

 

 

(2)簡易課税にするかどうかを決める際の注意点

 

 

予測の計算上はこのような結果になりましたが、予測の前提となる数字がブレた時にどうなるかを注意する必要があります。

 

 

①売上が予想よりも下がった場合をイメージしてみる

 

売上が予想よりも下がった場合にも、簡易課税を選んでいると必ず消費税を支払わなければなりません。

 

例えば、売上が予想の800万円でなく実際には300万円になってしまった場合で、仕入や経費は予想と変わらず300万円のまま(少し極端なケースですが)だとすると、

 

【簡易課税の計算式】

売上高300万円×(10%-業種ごとに決められた5%)=15万円

 

のように、簡易課税ならば15万円消費税を支払う必要があります。

 

 

一方で、原則課税ならば、

 

【原則課税の計算式】

売上高300万円-仕入や経費300万円=0万円

0万円×10%=0

 

と、消費税の支払はゼロになります。

 

 

 

簡易課税は赤字だろうがなんだろうが売上の一定の割合で消費税が計算されてしまうからです。

 

 

 

②車などの大きな事業用の買い物がないか考えてみる

 

「4.簡易課税を選ぶデメリット(1)原則課税と比べて損になるケースもある」

で既にお伝えしたように、

 

事業用の車などの大きな買い物の予定がないかをじっくり考えてみてください。もし簡易課税を選んでしまっていたら、

 

大きな買い物をした時に支払った消費税の分だけ損することになります。